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メラノーマ・血管肉腫センター


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センター長挨拶

 名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターのホームページをご覧いただき、ありがとうございます。
 近年、高齢化の進行や診断技術の向上により、皮膚がんと診断される患者さんは増加しています。皮膚がんの中でも、メラノーマ(悪性黒色腫)と血管肉腫は、比較的まれではありますが、進行が速く、早期診断と適切な治療方針の決定が特に重要ながんです。
メラノーマの治療は、この10年余りで大きく変化しました。免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の登場により、以前は治療が難しかった進行例に対しても、新たな治療選択肢が広がっています。さらに最近では、手術後の再発予防を目的とした補助療法だけでなく、手術前から薬物療法を組み合わせる治療戦略も注目されており、診療にはより専門的で総合的な判断が求められるようになっています。
 一方、血管肉腫は高齢者の頭部・顔面に発症することが多い希少がんであり、診断が遅れることも少なくありません。手術、放射線治療、抗がん薬治療をどのように組み合わせるかが重要であり、近年は免疫療法を含めた新たな治療の可能性についても研究が進められています。
 当センターでは、皮膚科、形成外科、放射線治療科、腫瘍内科、病理診断科などの関連診療科と連携し、診断から手術、薬物療法、放射線治療、再発時の治療方針の検討まで、患者さん一人ひとりに合わせた診療を行うことを目指しています。また、必要に応じて遺伝子検査や画像検査を活用し、最新のエビデンスに基づいた治療選択を行います。
メラノーマや血管肉腫は、早期に専門施設へ相談することで、治療の選択肢が広がる可能性があります。患者さんやご家族が安心して治療に臨めるよう、わかりやすい説明と丁寧な診療を心がけるとともに、地域の先生方からも相談しやすいセンターでありたいと考えています。
 臨床診療に加えて、当センターではメラノーマ・血管肉腫に関する臨床研究にも取り組み、将来のよりよい診断法・治療法の開発に貢献してまいります。
名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターは、患者さんにとって最善の医療を届けること、そして地域における皮膚悪性腫瘍診療の拠点となることを目標に、今後も診療・研究・教育に力を尽くしてまいります。

名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターについて

 名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターは本邦におけるメラノーマおよび血管肉腫の研究と治療の進歩、予防に取り組むために設立されました。我々の目標はメラノーマ・血管肉腫の早期診断、早期治療および新規治療の開発により、将来的なメラノーマ・血管肉腫による死亡をゼロにすることです。
名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターは、皮膚科医、腫瘍内科医、皮膚外科医、病理医、形成外科医、放射線科医、研究者、看護師などの多職種が一つ屋根の下で協力し、受診から最短期間での治療への到達し、患者さんへのサポート体制を構築し、多くの患者さんの治療を通じた本邦でのメラノーマ・血管肉腫の研究に寄与しています。

 事前に必要な資料(名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターへの受診方法を参照)を送付頂ければ初診時に具体的な治療日程まで決めていけるようなスムーズな診療をセンターのコンセプトにしています。

 2010年度より現在まで、当院へ受診されたメラノーマ患者さんの数および2015年度からの皮膚悪性腫瘍患者さんの数は以下の通りです。









メラノーマ患者さんの数









皮膚悪性腫瘍切除術の数


メラノーマセンターに携わる診療チーム

(令和8年4月1日現在)
氏名 役職
センター長 小松 弘和 臨床腫瘍部 部長
副センター長 加藤 裕史 皮膚科 副部長
樋渡 昭雄 中央放射線部 部長
荻野 浩幸 西部医療センター 陽子線治療科 部長
村瀬 貴幸 病理診断部 副部長
中村 亮太 形成外科 助教


メラノーマとは?

 メラノーマは、皮膚がんの中で最も生命予後に関わる疾患です。「メラノサイト」と呼ばれる皮膚の色(メラニン)を作る細胞から出現し、血液とリンパ系を介して肺、肝臓、脳などの遠隔臓器に転移する可能性があります。

 メラノサイトは、紫外線(太陽光線)から皮膚を守るためにメラニンを生成します。このメラノサイトが小児期や思春期に皮膚に集まると、ほくろが形成されます。メラノーマは、異常なメラノサイトが制御不能な状態で増殖することで発生します。メラノーマは皮膚だけでなく、口腔内や眼の粘膜など、いろいろな場所に発症する可能性があります。

原因

 欧米で発生するメラノーマはその多くが紫外線の過剰照射によるものとされていますが、日本人においては紫外線に関連しないタイプのものが約半数であり、特に手足や指先などに生じるタイプが多いとされています。

メラノーマの広がり方

 早期のメラノーマは皮膚の表面で発生し、あたかも通常のほくろのように見えます。そのまま治療されずに進行すると皮膚の深い部分(真皮)に広がります。そこからリンパ系や血流に入り、肺、肝臓、脳、骨など体の他の部位に転移することがあります。このような広がりは転移と呼ばれます。

メラノーマの診断

メラノーマは多くが皮膚にあるほくろもしくはシミのような病変から始まります。もし、皮膚に新しい形のおかしなほくろを見つけたり、古いほくろの形が変化し始めたりしたら、すぐに医師の診断を受けるようにしてください。

ほくろやシミを主訴に当院を受診された場合、まずは皮膚腫瘍を専門とする皮膚科医による視診とダーモスコピー検査が行われます。ダーモスコピーは写真にあるような拡大鏡で、光の反射を利用して病変を診察する器具で、この診察時には痛みなどはありません。

その後、疑わしい病変に対しては組織検査が行われます。
*ただし、病変のタイプによっては全摘生検(全体を切除して検査を行う方法)や、明らかにメラノーマと診断がつくタイプについては生検を行わずに手術等の治療に移ることもあります。

組織検査で数ミリの組織を採取したら、それを病理検査(顕微鏡で診断をつける検査)に提出し、7-10日程度で診断がつきます。

メラノーマの確定診断がついたら、転移があるかないかを調べるために画像検査を行います。画像検査の種類は患者さんの状態と腫瘍の進行によって異なりますがCT検査、MRI検査、PET-CT検査、腫瘍マーカー検査(血液)、高周波エコーなどがあります。

メラノーマの治療

メラノーマの治療は、病期、腫瘍の厚さ、潰瘍の有無、リンパ節転移や遠隔転移の有無、BRAF遺伝子変異の有無、患者さんの年齢や全身状態によって大きく異なります。
名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターでは、皮膚科、形成外科、放射線治療科、腫瘍内科、病理診断科などの関連診療科と連携し、複数の専門医による検討を行ったうえで、患者さん一人ひとりに適した治療方針を提案します。

メラノーマは、0期、I期、II期、III期、IV期に分類されます。さらに、腫瘍の厚さ、潰瘍の有無、リンパ節転移の程度などにより、より細かいサブステージに分けられます。

悪性黒色腫の病期と主な治療法

 ステージ0
ステージ0は、メラノーマが皮膚の表面に近い表皮内にとどまり、深い部分である真皮には浸潤していない状態です。「メラノーマ in situ」とも呼ばれます。
主な治療は手術です。通常は病変の周囲に一定の安全域をつけて切除します。早期の段階で適切に切除できれば、治癒が期待できます。

 ステージI
ステージIは、リンパ節や他の臓器への転移を認めない早期のメラノーマです。腫瘍の厚さや潰瘍の有無によって分類されます。
主な治療は原発巣の外科的切除です。腫瘍の厚さや病理所見によっては、リンパ節への微小な転移を調べるために、センチネルリンパ節生検を検討することがあります。

 ステージII
ステージIIは、リンパ節や遠隔臓器への転移は認めないものの、腫瘍が比較的厚い、または潰瘍を伴うなど、再発リスクが高くなる可能性があるメラノーマです。
主な治療は外科的切除です。多くの場合、センチネルリンパ節生検をあわせて検討します。病理結果によっては、手術後の再発リスクを下げる目的で、免疫チェックポイント阻害薬による術後補助療法を検討することがあります。

 ステージIII
ステージIIIは、近くのリンパ節や皮膚・皮下組織にメラノーマが広がっている状態です。遠隔臓器への転移は認めません。
治療は、手術、薬物療法、放射線治療を組み合わせて考えます。従来は手術を先に行うことが一般的でしたが、近年は、明らかなリンパ節転移がある場合などに、手術前から免疫療法などの薬物療法を行う「術前補助療法」も注目されています。実際に行うかどうかは、病変の場所、切除可能性、全身状態、薬剤の適応、治験の有無などを総合的に判断します。
また、手術後には、再発リスクを下げるために免疫チェックポイント阻害薬や、BRAF遺伝子変異がある場合にはBRAF阻害薬・MEK阻害薬による術後補助療法を検討することがあります。

 ステージIV
ステージIVは、肺、肝臓、脳、骨、遠隔リンパ節など、離れた臓器や部位に転移を認める状態です。
治療の中心は全身薬物療法です。免疫チェックポイント阻害薬や、BRAF遺伝子変異がある場合には分子標的治療薬を使用します。病変の数や場所によっては、手術や放射線治療を組み合わせることもあります。特に脳転移や骨転移では、症状の改善や重篤な合併症の予防を目的として、放射線治療が重要になることがあります。

メラノーマの手術

  • 原発巣に対する手術
  • メラノーマの治療では、まず皮膚の原発巣を適切に切除することが重要です。切除範囲は、腫瘍の厚さや病期によって異なります。一般的には、病変の周囲に一定の安全域をつけて切除します。切除後は、傷をそのまま縫い寄せることができる場合もありますが、切除範囲が広い場合や、顔面、手足、爪、足底など機能や整容面に配慮が必要な部位では、植皮術や皮弁術による再建を行うことがあります。当センターでは、がんをしっかり取り切ることに加えて、術後の機能や見た目にも配慮した治療を行います。

    • センチネルリンパ節生検
    • 「センチネル」とは「見張り」という意味です。センチネルリンパ節とは、メラノーマがリンパの流れに乗って最初に到達すると考えられるリンパ節のことです。
      センチネルリンパ節生検では、このリンパ節を手術で採取し、顕微鏡で転移の有無を調べます。転移がなければ、他のリンパ節にも転移している可能性は低いと考えられます。一方、転移が見つかった場合には、病期が変わり、術後補助療法や経過観察の方法を検討する重要な情報になります。以前は、センチネルリンパ節に転移が見つかった場合、追加でリンパ節郭清を行うことが多くありました。しかし現在は、すべての患者さんに早期リンパ節郭清を行うのではなく、転移の量、リンパ節の状態、画像検査の結果、術後補助療法の適応などを踏まえて、慎重に判断する方向になっています。センチネルリンパ節を見つけるために、手術前日にリンパシンチグラフィを行うことがあります。これは、微量の放射性物質を病変周囲に注射し、リンパの流れを確認する検査です。手術当日は、色素や蛍光法を併用してセンチネルリンパ節を同定します。

メラノーマに対する放射線治療

放射線治療は、X線や電子線などを用いて、がん細胞のDNAに損傷を与える治療です。
メラノーマは、以前は放射線が効きにくいがんと考えられていました。そのため、原発巣に対して放射線治療だけで治療することは一般的ではありません。しかし、現在でも特定の状況では放射線治療が重要な役割を持ちます。

  • 転移病変に対する放射線治療
  • 脳転移、骨転移、痛みを伴う転移、出血や神経症状を起こす可能性のある病変に対して、放射線治療を行うことがあります。特に脳転移では、腫瘍による出血、けいれん、麻痺、意識障害などが生命に関わることがあります。そのため、薬物療法だけでなく、定位放射線治療や全脳照射などを含め、放射線治療の適応を早期に検討します。

    • 薬物療法との併用
    • 免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬の効果が得られている場合でも、一部の病変だけが大きくなることがあります。このような場合、薬物療法を継続しながら、増大している病変に放射線治療を加えることがあります。また、放射線治療によって腫瘍抗原が体内で認識されやすくなり、免疫療法の効果に影響する可能性も研究されています。ただし、実際の治療では効果と副作用のバランスを慎重に判断する必要があります。

      • 陽子線治療・粒子線治療
      • 陽子線治療は、水素の原子核である陽子を加速して照射する治療です。体内の一定の深さでエネルギーを集中させやすいという特徴があり、周囲の正常組織への影響を抑えられる可能性があります。ただし、メラノーマに対してすべての患者さんに適応となる治療ではありません。病変の場所、広がり、他の治療との関係を踏まえて適応を検討します。
        名古屋市立大学医学部附属西部医療センターには陽子線治療センターがあり、必要に応じて連携して治療方針を検討します。

メラノーマの薬物療法

メラノーマの薬物療法は、この10年で大きく進歩しました。現在は、主に以下の2つの治療が中心です。

  1. 免疫チェックポイント阻害薬
  2. BRAF阻害薬・MEK阻害薬を中心とした分子標的治療薬

薬物療法は、主に以下の場面で使用されます。
 • 手術後の再発リスクを下げるための術後補助療法
 • 手術前に腫瘍を小さくする、または再発リスクを下げることを目的とした術前補助療法
 • 転移や再発を認める進行期メラノーマに対する全身治療

  • 免疫チェックポイント阻害薬
  • 免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身の免疫の力を利用して、メラノーマ細胞を攻撃しやすくする薬です。
    代表的な薬剤には、以下のようなものがあります。
     • オプジーボ®
     • キイトルーダ®
     • ヤーボイ®

    オプジーボ®やキイトルーダ®は、PD-1という免疫のブレーキに関わる分子を標的とする薬です。ヤーボイ®はCTLA-4という別の免疫のブレーキを標的とする薬です。病状によっては、これらを単剤または併用で使用します。免疫チェックポイント阻害薬は、BRAF遺伝子変異の有無にかかわらず使用を検討できます。一方で、免疫が強く働きすぎることにより、皮膚、腸、肝臓、肺、甲状腺、下垂体、副腎、腎臓、神経、心臓など、さまざまな臓器に副作用が起こることがあります。
    発熱、下痢、息切れ、強い倦怠感、皮疹、黄疸、頭痛、視野異常、動悸などがある場合は、早めに医療機関へ相談することが重要です。

    • 分子標的治療薬
    • 分子標的治療薬は、メラノーマ細胞の増殖に関わる特定の遺伝子異常を標的にする薬です。
      メラノーマでは、BRAF遺伝子変異を調べることが重要です。BRAF遺伝子変異がある場合、BRAF阻害薬とMEK阻害薬を組み合わせた治療を検討できます。
      代表的な薬剤には、以下のようなものがあります。
       • タフィンラー®・メキニスト®
       • ビラフトビ®・メクトビ®
       • ゼルボラフ®

      分子標的治療薬は、効果が比較的早く現れることが多く、腫瘍量が多い場合や症状が強い場合に有用なことがあります。一方で、発熱、皮疹、関節痛、肝機能障害、心機能への影響、眼の副作用などが起こることがあります。

      • 従来の抗がん薬
      • 以前は、ダカルバジンなどの殺細胞性抗がん薬が進行期メラノーマの治療に用いられていました。現在は、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬が中心となっており、従来の抗がん薬を使用する機会は少なくなっています。ただし、病状やこれまでの治療歴によっては選択肢となる場合があります。

        • 術後補助療法について
        • 手術で病変を取り切ることができても、病期や病理所見によっては再発のリスクが残る場合があります。そのような患者さんに対して、再発リスクを下げる目的で行う薬物療法を「術後補助療法」といいます。術後補助療法では、主に免疫チェックポイント阻害薬が使用されます。また、BRAF遺伝子変異がある場合には、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法を検討することがあります。術後補助療法を行うかどうかは、再発リスクだけでなく、副作用、通院頻度、患者さんの生活、持病、年齢、希望などを含めて相談しながら決定します。

          • 術前補助療法について
          • 近年、メラノーマ治療で注目されているのが「術前補助療法」です。
            これは、手術で切除可能なメラノーマであっても、リンパ節転移が明らかな場合などに、手術の前から免疫チェックポイント阻害薬などの薬物療法を行う治療戦略です。術前に薬物療法を行うことで、腫瘍が小さくなる、手術の範囲を検討しやすくなる、治療効果を病理検査で確認できる、再発リスクを下げられる可能性がある、などの利点が期待されています。
            一方で、すべての患者さんに行う治療ではなく、副作用、治療開始のタイミング、手術時期、薬剤の適応、国内での承認状況、治験の有無などを総合的に判断する必要があります。当センターでは、最新の知見を踏まえ、適応があると考えられる場合には、患者さんと相談しながら治療方針を検討します。2026年6月現在、術前補助療法は保険適用外の治療となります。

当センターでのメラノーマの治療方針

 メラノーマの治療は、手術だけで完結する早期のものから、薬物療法、放射線治療、複数診療科の連携が必要な進行期のものまで幅広くあります。
当センターでは、以下の点を重視して診療を行っています。
 • 正確な診断
 • 病期に応じた適切な治療選択
 • センチネルリンパ節生検や画像検査による再発リスク評価
 • BRAF遺伝子検査などを踏まえた薬物療法の選択
 • 手術、薬物療法、放射線治療を組み合わせた集学的治療
 • 副作用の早期発見と適切な対応
 • 患者さんやご家族へのわかりやすい説明
 • 地域の先生方との連携

メラノーマは早期に発見できれば、手術だけで治癒が期待できることも多いがんです。一方で、進行した場合でも、近年は治療選択肢が大きく広がっています。気になるほくろ、急に大きくなったしみ、色むらのある黒い病変、出血やびらんを伴う病変、爪の黒い線、足の裏の色素斑などがある場合は、早めにお近くの皮膚科へご相談ください。

皮膚血管肉腫とは?

皮膚血管肉腫は、血管の内側を覆う「血管内皮細胞」から発生する悪性腫瘍です。皮膚がんの中ではまれな疾患ですが、進行が速く、再発や転移を起こしやすいことが知られています。

特に高齢者の頭部や顔面に発症することが多く、初期には「青あざ」「内出血」「湿疹」「打撲のあと」のように見えることがあります。そのため、最初は皮膚がんとは気づかれにくく、診断が遅れることもあります。

皮膚血管肉腫は、皮膚の表面だけでなく、皮膚の深い部分や皮下組織に広がることがあります。また、血液の流れに乗って肺、肝臓、骨などの遠隔臓器に転移する可能性があります。中でも肺転移は比較的多く、息切れ、咳、胸の痛み、血痰などの症状につながることがあります。

皮膚血管肉腫はまれな病気ですが、早い段階で専門施設に相談し、診断と治療方針を決めることが重要です。

皮膚血管肉腫の原因

皮膚血管肉腫の原因は、すべてが明らかになっているわけではありません。

高齢者の頭部・顔面に発症するタイプでは、長年の紫外線曝露や皮膚の慢性的な変化が関係している可能性が考えられています。一方で、明らかなきっかけがなく発症することも少なくありません。

また、乳がんなどに対する放射線治療後に発症する放射線誘発性血管肉腫や、乳がん手術後やリンパ節郭清後などに長期間続くリンパ浮腫を背景に発症する血管肉腫もあります。リンパ浮腫を背景に発症するものは、Stewart-Treves症候群と呼ばれることがあります。

ただし、皮膚血管肉腫の多くは、患者さんご本人の生活習慣だけで説明できるものではありません。気になる皮膚の変化がある場合は、「様子を見すぎない」ことが大切です。

皮膚血管肉腫の広がり方

皮膚血管肉腫は、皮膚の血管内皮細胞から発生し、皮膚の中をしみ込むように広がることがあります。

見た目には小さな紫色の斑点や内出血のように見えていても、実際には周囲の皮膚に広く腫瘍細胞が広がっている場合があります。そのため、外から見える範囲だけでは、病変の広がりを正確に判断することが難しいことがあります。

進行すると、皮膚の盛り上がり、しこり、出血、びらん、潰瘍を伴うことがあります。また、血液の流れに乗って肺などに転移することがあります。皮膚血管肉腫では、局所再発と遠隔転移の両方に注意が必要です。

皮膚血管肉腫の診断

皮膚血管肉腫は、初期には通常のあざ、湿疹、打撲、老人性紫斑、血管腫などと区別がつきにくいことがあります。

次のような症状がある場合は、早めに皮膚科を受診してください。

頭部や顔面に、原因のはっきりしない紫色・赤紫色の斑点がある
打撲の覚えがないのに、あざのような病変が広がっている
湿疹のような赤みや紫斑が、治療しても改善しない
皮膚のしこり、盛り上がり、出血、びらんがある
高齢の方の頭部・顔面に、急に広がる赤紫色の病変がある
乳がん手術後や放射線治療後の部位に、赤紫色の斑点やしこりが出てきた
長く続くリンパ浮腫のある腕や脚に、紫色の斑点やしこりが出てきた

当センターでは、まず皮膚腫瘍を専門とする皮膚科医が視診、触診などを行います。皮膚血管肉腫が疑われる場合には、皮膚生検を行い、病理検査で診断を確定します。

病理検査では、顕微鏡で腫瘍細胞の形や広がりを確認します。また、血管内皮細胞由来の腫瘍であることを確認するために、CD31、ERG、CD34などの免疫染色を行うことがあります。

診断がついた後は、病変の広がりや転移の有無を調べるために画像検査を行います。CT検査、MRI検査、PET-CT検査、超音波検査などを、患者さんの状態や病変の部位に応じて組み合わせます。

皮膚血管肉腫の治療

皮膚血管肉腫の治療は、病変の部位、大きさ、広がり、転移の有無、患者さんの年齢や全身状態によって大きく異なります。

メラノーマのように明確な病期分類だけで治療方針が単純に決まるわけではなく、手術、放射線治療、薬物療法をどのように組み合わせるかを慎重に検討する必要があります。

名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターでは、皮膚科、形成外科、放射線治療科、腫瘍内科、病理診断科、画像診断部門などと連携し、患者さん一人ひとりに適した治療方針を検討します。

皮膚血管肉腫の主な治療法

皮膚血管肉腫の治療では、主に以下の治療を組み合わせます。

手術
放射線治療
薬物療法
化学放射線療法
緩和的治療・支持療法

病変が限局している場合には、手術や放射線治療によって局所制御を目指します。一方で、病変が広範囲に及ぶ場合や転移を認める場合には、薬物療法が重要になります。

皮膚血管肉腫の手術

ごく早期の皮膚血管肉腫では手術を行う場合があります。
ただし、皮膚血管肉腫は、見た目よりも広く皮膚の中に広がっていることがあります。広範囲のものに関しては手術よりも後述する放射線治療が選択されることが多いです。

頭部や顔面では、広範囲の切除が必要になることがあり、切除後には植皮術や皮弁術などの再建手術を行うことがあります。特に顔面や頭部では、がんをしっかり取り切ることに加えて、機能や整容面にも配慮した治療が重要です。

皮膚血管肉腫に対する放射線治療

放射線治療は、皮膚血管肉腫の治療で非常に重要な役割を持ちます。

皮膚血管肉腫では、手術後の再発リスクを下げるために放射線治療を行うことがあります。また、手術が難しい場合や病変が広範囲に及ぶ場合には、放射線治療を中心に治療を組み立てることもあります。

特に頭部・顔面の皮膚血管肉腫では、病変が広く、手術だけでは十分な局所制御が難しいことがあります。そのため、放射線治療と薬物療法を組み合わせた治療を検討することがあります。

  • 手術後の放射線治療
  • 手術で病変を切除した後でも、目に見えない腫瘍細胞が周囲に残っている可能性があります。そのため、再発リスクが高いと判断される場合には、術後放射線治療を行うことがあります。

    • 根治を目指した放射線治療
    • 病変が広範囲で手術が難しい場合や、手術による機能・整容面への影響が大きい場合には、放射線治療を中心に治療することがあります。

      • 緩和的放射線治療
      • 出血、痛み、腫瘍の増大、転移病変による症状を和らげる目的で、放射線治療を行うことがあります。症状を軽減し、生活の質を保つことも重要な治療目標です。

皮膚血管肉腫の薬物療法

皮膚血管肉腫では、病変が広範囲に及ぶ場合、手術や放射線治療だけでは十分な治療が難しい場合、再発や転移を認める場合に薬物療法を検討します。

主に使用される薬物療法には、以下のようなものがあります。

 タキサン系抗がん薬
 分子標的治療薬
 その他の抗がん薬
 免疫チェックポイント阻害薬(*2026年6月段階で一部の特殊なものを除き保険適用外)

皮膚血管肉腫でよく用いられる薬剤の一つが、パクリタキセルなどのタキサン系抗がん薬です。

パクリタキセルは、進行期や再発・転移を伴う皮膚血管肉腫で使用されることがあります。また、放射線治療と組み合わせて用いることで、局所制御を高めることが期待される場合もあります。

副作用として、脱毛、しびれ、白血球減少、感染リスクの上昇、倦怠感、関節痛・筋肉痛、アレルギー反応などが起こることがあります。治療中は採血や診察で副作用を確認しながら進めます。

  • 分子標的治療薬
  • 血管肉腫では、腫瘍の血管新生や増殖に関わる分子を標的とする薬剤が使用されることがあります。
    代表的な薬剤として、ヴォトリエント®があります。
    副作用として、高血圧、肝機能障害、下痢、倦怠感、食欲低下、手足の症状、出血、創傷治癒遅延などに注意が必要です。

    • その他の抗がん薬
    • パクリタキセルが効きにくくなった場合や、病状に応じて、ドセタキセルやハラヴェン®などの薬剤を検討することがあります。
      どの薬剤を選択するかは、これまでの治療内容、病変の進行速度、副作用、患者さんの全身状態、通院のしやすさなどを考慮して決定します。

      • 免疫チェックポイント阻害薬
      • 近年、血管肉腫に対しても免疫チェックポイント阻害薬の効果が注目されています。
        特に頭部・顔面など日光に当たりやすい部位に発症する血管肉腫では、腫瘍の遺伝子変異量が多い場合があり、免疫療法が効果を示す可能性が報告されています。
        ただし、すべての皮膚血管肉腫に標準的に使用される治療ではありません。腫瘍遺伝子変異量、MSI、PD-L1発現、これまでの治療歴、保険適用、治験の有無などを踏まえて慎重に検討します。
        免疫チェックポイント阻害薬では、皮膚、腸、肝臓、肺、内分泌臓器、腎臓、神経、心臓などに免疫関連副作用が起こることがあります。発熱、下痢、息切れ、強い倦怠感、皮疹、黄疸、頭痛、動悸などがある場合には早めに相談することが重要です。

        • 化学放射線療法について
        • 皮膚血管肉腫では、薬物療法と放射線治療を組み合わせる「化学放射線療法」を行うことがあります。
          特に、頭部・顔面の大型病変や手術が難しい病変では、放射線治療にパクリタキセルなどの薬物療法を組み合わせることで、腫瘍を小さくしたり、局所制御を高めたりすることを目指します。
          一方で、皮膚炎、脱毛、倦怠感、感染リスク、血球減少などの副作用が出ることがあります。治療の効果と副作用のバランスを考え、患者さんの全身状態を確認しながら治療を進めます。

転移・再発した場合の治療

皮膚血管肉腫は、治療後も局所再発や遠隔転移を起こすことがあります。特に肺転移に注意が必要です。
再発や転移を認めた場合には、再手術、放射線治療、薬物療法、緩和的治療を組み合わせて検討します。
再発病変が限局している場合には、手術や放射線治療を行うことがあります。転移がある場合や全身に病変が広がっている場合には、薬物療法が中心となります。

また、症状を和らげる治療も重要です。出血、痛み、息切れ、咳、浮腫、皮膚潰瘍などに対して、支持療法や緩和ケアを早い段階から併用することがあります。緩和ケアは「治療をあきらめる」ことではなく、がん治療と並行して症状や不安を軽くするための医療です。

当センターでの皮膚血管肉腫の治療方針

皮膚血管肉腫はまれな疾患であり、診断や治療に専門的な判断が必要です。治療は、手術だけでなく、放射線治療、薬物療法、再建手術、支持療法を組み合わせて行うことが多くあります。

当センターでは、以下の点を重視して診療を行っています。
 早期診断と迅速な病理診断
 画像検査による病変の広がりと転移の評価
 手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせた集学的治療
 頭部・顔面などの機能と整容面に配慮した治療
 パクリタキセルなどの薬物療法と放射線治療の適切な組み合わせ
 再発・転移時の治療選択肢の検討
 副作用の早期発見と適切な対応
 患者さんやご家族へのわかりやすい説明
 地域の先生方との連携
 臨床研究を通じた新しい治療法の開発への貢献

皮膚血管肉腫は、早期にはあざや湿疹のように見えることがあります。しかし、通常の治療で改善しない赤紫色の病変、広がるあざのような病変、出血やしこりを伴う病変は注意が必要です。
特に高齢の方の頭部・顔面に、原因のはっきりしない紫色の斑点や内出血のような病変が広がる場合には、早めにお近くの皮膚科へご相談ください。必要に応じて、専門施設での診断と治療方針の検討を行います。

がんゲノム検査

 「がんゲノム医療」とは、患者さん毎にがんの原因を明らかにし、より適した治療薬を選択する次世代のがん治療です。100以上のがんに関連する遺伝子を1回の検査で網羅的に解析し、遺伝子異常に関連する分子標的治療を探すための検査であり、標準治療で効果不十分な方に行うことができます。がんゲノム医療については名古屋市立大学病院がんゲノム外来をご参照ください。


名古屋市立大学メラノーマセンターへの受診方法

患者さんへ
名古屋市立大学メラノーマセンターでは直接受診(紹介状なしの受診)は承っておりません。必ずかかりつけの医師に相談の上、ご予約いただきますよう、お願いいたします。

かかりつけ医の皆様へ
メラノーマセンターへの受診に際しては、以下の資料をご準備いただき、ご予約いただきますよう、お願いいたします。
必要な資料(①は必須、②から⑤は検査を行っていれば事前にご送付ください)
① 診療情報提供書
② 病変の臨床写真
③ 画像検査データおよび読影レポート
④ 病理プレパラートおよび病理レポート
⑤ 病理ブロックもしくは未染標本10枚

*受診に際して、お申し込み資料を皮膚腫瘍担当医が確認させていただき、複数診療科での検討が必要な場合はメラノーマセンター外来で、疑い例で診断がメインの症例などについてはまず皮膚科腫瘍専門医の外来で対応させていただくように割り振りをさせていただきます。

臨床試験について

当センターでは現在以下の臨床試験を行っております。
臨床試験の適応やご質問などにつきましては、名古屋市立大学病院臨床研究開発支援センターまでお問い合わせください。

現在当院で行っているメラノーマ・血管肉腫に関わる臨床試験は以下の通りです。

• 根治切除不能悪性黒色腫(メラノーマ)治療におけるニボルマブとのTM5614併用の安全性・有効性を検討する第III相試験
• 進行固形がん患者を対象としたTRK-950の第I/II相臨床試験
• 特定の固形癌若しくはリンパ腫を有する小児患者、又は進行性メルケル細胞癌を有する成人患者を対象とした、MK-3475の第I/II相試験(KEYNOTE-G21)
• JCOG2403病期IIB/IICと顕微鏡的リンパ節転移を有する病期IIIのBRAFV600変異を有する悪性黒色腫に対する術後補助療法としてのBRAF/MEK阻害薬と抗PD-1抗体を比較するランダム化第III相試験

セカンドオピニオン

セカンドオピニオン外来

当センターでは積極的にセカンドオピニオンの受け入れも行っております。
詳細および申し込みは、名古屋市立大学病院セカンドオピニオン外来をご確認ください。

オンラインセカンドオピニオン外来

名古屋市立大学メラノーマ・血管肉腫センターでは悪性黒色腫(メラノーマ)、血管肉腫、皮膚がん(有棘細胞癌、基底細胞癌、乳房外パジェット病、メルケル細胞癌、隆起性皮膚線維肉腫など)の患者さんのオンラインセカンドオピニオンを行っております。診断についてのご相談、治療方針についてのご相談、当院で行っている治験についてのご相談など、お困りの事があれば是非ご利用ください。