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診療科・部門

虚血性脳卒中(脳梗塞)


脳の血の巡りが悪くなる虚血性脳卒中には、頚や頭の中の動脈にアテローム硬化が生じて血の塊ができ血管を塞ぐ脳血栓症、心臓にできた血栓が脳の動脈を塞ぐ心原性脳塞栓、脳の深部を通る数十〜数百ミクロンの動脈がつまるラクナ梗塞に分けられます。

以下に、虚血性脳卒中に対して当院で行っているt−PA静注療法や外科治療、血管内治療について説明致します。

虚血性脳卒中に対するt−PA静注療法

平成17年に認可されたt−PA静注療法は、現在、発症後4.5時間以内に投与開始が可能である、また広範囲の虚血巣がCTでまだ現れていないなどの条件を満たした患者さんにt−PA(「アルテプラーゼ」と言う薬です)を投与して、血栓を溶解して血行を再開し、症状を軽減あるいは消失しうる治療です。強力な効果がある反面、脳出血などの合併症も発生しやすい薬であるため、投与には数多くの制約があり、治療前後では脳卒中ケアユニットでの神経症状や血圧などの頻回なチェック、監視が必須となります。現時点では発症後4.5時間以内での治療開始が必須条件ですので、発症後の限られた時間を有効活用することが鍵となります。当院でも、年々t−PA静注療法の適応となる患者さんのご紹介や救急搬入が増えています。この治療は、神経内科においても行われます。

t−PA静注療法でも血行再開が得られないことがあり、この場合には、血管内治療による機械的な血栓除去を考慮することがあります(詳しくは「脳塞栓症に対する超急性期血行再建術」をご覧下さい)。

虚血性脳卒中に対する主な外科治療

頚部頸動脈狭窄症に対する頚動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy:CEA)

概要

挿絵・頚部頚動脈狭窄の透視写真

頚部頚動脈狭窄症とは、頚部の頚動脈分岐部付近の血管が動脈硬化性粥状変化により狭窄を生じ、これが原因で脳血流量の低下をきたしたり、頭蓋内塞栓の原因となったりして脳梗塞を起こす原因となりうる疾患です。以前は欧米人に多い疾患とされてきましたが、日本人の食生活の欧米化、高齢化社会化に伴い、我が国でも徐々に増加傾向を示しています。また頸動脈エコーの普及により無症候の状態での発見も増加してきています。
頚部頚動脈狭窄症が見つかった場合、まずは生活習慣の見直しや内服薬の治療を中心とした最良の内科治療を行うことを考えますが、狭窄の程度が強くなると、その後の脳梗塞を予防するために外科的治療を検討することとなります。
その標準的治療は頚動脈内膜剥離術(Carotid endarterectomy:CEA)です。このCEAに関しては、欧米を中心に大規模な多施設共同研究がなされ内服薬のみで治療する方法と(内科治療)、CEA(外科治療)ではその後の脳梗塞の発症予防としてはCEAの方がすぐれているという結果が出ています。このためわが国でも広くCEAは行われていますが、CEAの手術リスクが高いと考えられたり、麻酔のリスクが高いと考えられたりする患者さんに対しては頚動脈ステント留置術(Carotid Artery Stenting:CAS)という血管内治療も行われております。

重症度と分類

挿絵・重症度と分類の図

頚部頚動脈狭窄症は狭窄度によって30~49%までを軽度、50%~69%までを中等度、70%以上を高度と分類するものが一般的です。狭窄度の計算方法はいくつかありますが、NASCETという大規模臨床試験での測定法が一般的で広く用いられます。
また症候性か無症候性かという点でも重要です。症候性とは過去に頚部頚動脈狭窄症が原因で脳梗塞やTIA(一過性虚血発作)などを生じた場合をいい、無症候性とは過去にその狭窄による症状がないものを言います。

CEAの手術適応

手術の適応は「症候性」か「無症候性」によって異なります。過去に行われた大規模臨床試験の結果(症候性:North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial(NASCET)、European Carotid Surgery Trial(ECST)、無症候性:Asymptomatic Carotid Atherosclerosis Study(ACAS)、Asymptomatic Carotid Surgery Trial(ACST))からCEAに関しては、症候性の場合は70%以上の高度狭窄例では良い適応、50~69%の中等度狭窄例では年齢、全身状態を考慮して施行を考慮、50%未満の軽度狭窄では手術適応なしと定められています。無症候性の場合では60%以上の狭窄でCEAが有効と言われていますが、最近は内服薬を中心とした内科的治療も進歩してきているので実際には、まず内科的治療を行い、その上で病状が進行するもの、狭窄度が非常に高いものが手術の対象となる場合が多いです。
また近年では血管内治療である頚動脈ステント留置術(Carotid Artery Stenting:CAS)が広まってきており、当院でも数多く行われています。この2つの手術はどちらが優れているということではなく、両者にそれぞれ一長一短な面があるため、患者さんの状態に合わせてより良い治療法を選ぶことが重要です。当院ではどちらの治療も一定以上の水準で施行できる体制を整えています。
North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial(NASCET)
北米50施設で1988年1月から開始された過去120日以内のTIAまたは軽度脳梗塞患者2885名を無作為に「最良の内科治療」と「最良の内科治療+CEA」に分け、2群間での脳卒中の発生頻度を約2年間にわたり比較検討した研究。CEAを行う外科医にはその手術リスクが6%以下でなければならないという条件が科せられました。結果として1991年に70%以上の高度狭窄群では、脳卒中の発生率は内科群で26%であるのに対しCEA群では9%であり、合併症率の低い外科医がCEAを行う限り患側の脳卒中発生率を有意に減少させることが証明されました。さらに1998年には50~69%以下の中等度狭窄例においても有意差は小さいものCEA群が内科治療群より脳卒中の発症率を低下させることも証明され、これらの研究結果が今日の頚部頚動脈狭窄に対する手術適応の基盤となっています。

頚動脈内膜剥離術の実際

手術は全身麻酔で行います。患側頚部を必要分切開し、病変のある頚部頚動脈の分岐部を中心に露出後、頚動脈の血流を一時的に遮断して、手術用顕微鏡の観察下に病変部の内膜と中膜を丁寧に剥離して粥腫を摘出します。当院では遮断中の脳の血流を確保するために、内シャントと呼ばれる器具を全例に用いています。粥腫摘出後は血管壁を縫合し、創部を閉創します。

頚動脈内膜剥離術の合併症について

この手術は基本的には安全に施行しうる手術ではありますが、いくつかの合併症の可能性があり、一旦合併症が起こると、重篤な機能障害を起こしたり、生命に関わることも起こりえます。起こりえる代表的な合併症として、1.手術中、術後の脳梗塞の再発、悪化、2.手術中、術後の創部と頭蓋内出血、3.心臓発作、4.脳神経障害(舌下神経、迷走神経、顔面神経)、5.麻酔、薬剤使用によるアレルギーやショック、6.術後の再狭窄などが挙げられます。
現在は血管内治療である頚動脈ステント留置術(Carotid Artery Stenting:CAS)も良い治療法でありますので、それぞれの治療の特性や危険性を考えた上で、患者さんの背景に応じて最も良いと思われる治療法をお勧めしたいと考えています。
参考: 脳神経外科疾患情報ページ (外部リンク)

内頚動脈(または中大脳動脈)閉塞に対する浅側頭動脈

-中大脳動脈吻合術(STA-MCA anastomosis)

概要

脳の神経細胞が生きていくために必要な量の血流が来ないと脳は極めて短時間で脳梗塞すなわち壊死に陥ってしまいます。脳梗塞に陥ると現在の医学水準では脳梗塞に陥った部分を救うことはできません。こうした脳梗塞は脳を栄養する動脈が閉塞あるいは狭窄するために起こります。脳の主幹動脈である内頚動脈(または中大脳動脈)が閉塞した場合は通常は大きな脳梗塞となる場合が多いですが、あらかじめ側副血行路(反対側や後ろ側などからまわってくる血流)が豊富である場合には、脳梗塞の範囲が小さく済む、あるいは全く起こらない場合も存在します。側副血行路が豊富にあり、脳血流に十分な余力がある場合は、例え内頚動脈(または中大脳動脈)が閉塞していてもあわてることはありません。逆に脳梗塞の範囲が小さく済んでいたとしても、実は脳血流に余力が十分にない場合は、脳梗塞再発の危険性が高く、追加の手術治療が考慮される場合があります。
ここでは内頚動脈(または中大脳動脈)閉塞症に対する手術治療について述べていきます。

内頸動脈(または中大脳動脈)閉塞症に対してはどのような治療法があるのか?

治療は脳梗塞の進展、再発を少しでも減少させることです。現在可能な治療法は主に2種類があります。第1は通常の脳梗塞再発予防として服用される血小板機能を抑える薬剤を用いた薬物治療です。これは血栓を作りにくくするもので、閉塞病変そのものを治す薬剤ではありません。第2は手術によって脳の外から脳内へ血液を送るように、本来脳を栄養しない頭皮を栄養する動脈(浅側頭動脈:Superior Temporal Artery(STA))を脳表面の動脈(中大脳動脈:Middle Cerebral Artery(MCA))へ吻合しバイパスを作ることです。

浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の手術適応

内頸動脈または中大脳動脈が高度に閉塞または狭窄していて、かつそれにより脳の血流が低下している例に対して、薬物療法とバイパス術とでどの程度将来の脳卒中を予防できるかという共同研究が日本と海外にてそれぞれ行われました。海外での研究では薬物療法に比べてバイパス手術による有効性は示されませんでしたが、日本の研究(JET study:Japanese EC/IC bypass trial)では脳梗塞発症から2年の間に薬物治療群では16.5%、外科治療群では6.8%の方が脳卒中を再発され、手術治療の方が脳卒中(梗塞)予防効果が優っていたと報告されています。日本では今までに症状があり、血流低下がその研究の登録基準に合致するほど低下していると考えられる場合、手術治療が望ましいと考えられています。

浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の実際

手術は全身麻酔で行います。前頭側頭部に皮膚切開を加えてこれを翻転し、耳の前で拍動を触れる浅側頭動脈を頭皮の裏側から剥離します。必要分の頭蓋骨をドリルで削って開頭し、脳の表面にある中大脳動脈の枝から適当な大きさの枝を剥離し、皮弁より剥離した浅側頭動脈を端側吻合します。吻合中は一時専用クリップを用いて血流を遮断することとなります。吻合後止血を確認し、頭蓋骨はチタン製の金属プレートとネジで固定して元に戻し、手術創部を縫合閉鎖して手術を終了します。

浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術の合併症について

この手術は基本的には安全に施行しうる手術ではありますが、いくつかの合併症の可能性があり、一旦合併症が起こると、重篤な機能障害を起こしたり、生命に関わることも起こりえます。起こりえる代表的な合併症として、1.手術中、術後の脳梗塞の再発、悪化、2.手術中、術後の頭蓋内出血、3.頭皮、創部の壊死、4.心臓発作、5.麻酔、薬剤使用によるアレルギーやショックなどが挙げられます。

当院では

神経内科と共同で脳梗塞の治療にあたっており、まず最良の内科治療を行いながら、上記JET studyの登録基準に合致する例を基本として、十分なインフォームド・コンセントの下に手術適応を決定しています。
3ヶ月以内のTIAまたはminor stroke
73才以下
安静時脳血流:正常値の80%未満
脳循環予備機能0%以上10%未満 → 中等症群
脳循環予備機能0%未満 → 重症群
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