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診療科・部門

脳腫瘍



脳腫瘍とは

脳腫瘍とは、脳の中(大脳、小脳、脳幹、脳を保護する硬膜やくも膜、脳に酸素や栄養を供給する血管、体の恒常性を維持するために必要なホルモンを産生、分泌する下垂体、脳の底から出ている左右12対ある脳神経など)にできた「できもの」の総称です。
本来の脳の組織の一部からできた腫瘍を原発性脳腫瘍、身体の他にできたがんや肉腫などの細胞が血液の流れによって脳の中に入り、脳の組織内で大きくなってできた腫瘍を転移性脳腫瘍と呼びます。
脳の中には、細かく分類すると150種類程の腫瘍ができますが、それを構成している細胞の悪性度によって、良性脳腫瘍と悪性脳腫瘍に分けられます。一般に、WHO(世界保健機関)の悪性度の分類に従って、脳腫瘍は最も良性であるグレード1から最も悪性のグレード4までに分けられています。転移性脳腫瘍は最も悪性の脳腫瘍の一つです。原発性脳腫瘍にもグレード4に相当する悪性腫瘍もありますが、この場合でも「〜がん」と言う呼び方はしません。一般的には、良性の腫瘍ほどゆっくりと大きくなりますが、いつ頃からでき始めたのかを正確に言うことは困難です。悪性脳腫瘍は、腫瘍の増大に伴って周囲の正常の脳組織にむくみが伴われることが多く、これらにより、急激に症状の悪化をきたすことがあります。また、組織学的に良性であっても、できる部位によっては治療が困難となる場合もあります。
日本では、脳腫瘍は人口10万あたり年間約3.5人に発生すると言われています。できる腫瘍によって、発症しやすい年齢(好発年齢と言います)や部位(好発部位と言います)にある程度の傾向がみられます。

脳腫瘍による症状について

脳腫瘍が発生しても、直ちに発症する(症状が現れる)ことはありません。ある程度の大きさになって初めて様々な症状が出てきますが、これらの症状を頭蓋内圧亢進症状(ずがいないあつこうしんしょうじょう)と局所症状とに分けられます。

頭蓋内圧亢進症状

硬い頭蓋骨の内側には脳、血管や髄液が存在し、これらの圧もある一定の範囲に保たれています。しかし、脳腫瘍ができ、次第に大きくなると脳が圧迫を受けたりむくんできたり、髄液の流れが悪くなることによって、頭蓋内圧が高くなり、ある一定の範囲を超えると頭痛を自覚するようになります。頭痛は朝方に強いことがあり、また、吐き気や嘔吐を伴うことがあります。かぜや胃や腸の病気の症状と間違われていることもあります。慢性的に続く頭痛は特に注意すべきです。

局所症状

挿絵・手のしびれ

脳腫瘍ができる部位によっては、その部位にある程度特有な神経症状が現れることがあります。大脳は、前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、大脳基底核に分けられます。
反対側の手足などを動かす時に働く運動神経がある前頭葉に腫瘍ができ、ある程度の大きさになると、手足の動きが悪くなったり、呂律の周りが悪くなったりします。また、右利きの人では、左側の前頭葉に腫瘍ができると、活気がなくなったり、物忘れがひどくなったり、情にもろくなったり、性格が変わってしまったり、言葉がうまく出なかったり、間違ったことを言ったりなどの症状がでることがあります。右利きの人では、左側の側頭葉の後寄りにできると、言葉の理解ができなくなることがあります。頭頂葉にできると、反対側の感覚障害が出ます。特に左側の頭頂葉に腫瘍が生じると、計算ができなくなる、右左の判別ができない、指の名前がわからない、字が書けなくなる、読めなくなるなどの症状がでることがあります。大脳の後ろ側には後頭葉があり、光の情報を認識していますので、ここにできる腫瘍によって、腫瘍ができた側とは反対側の視野欠損が生じます。周辺視野が狭くなるので、走ってくる車に気付くことが遅れたり、車を運転中に壁や電柱に車体をぶつけてしまうなどの事故を起こしたりすることがあります。
小脳は、体のバランスの保持や手足のスムーズな動きに関係しています。小脳に腫瘍が生じると、体がふらついてうまく立つことや歩くことができなくなったり、めまいを感じたりすることがあります。
脳幹には体からの神経、大脳からの神経が上下に通過しており、生きていくために基本的に必要な機能を有している脳の中で最も重要な部位です。また、この部位には、目を動かすときに働く眼球運動神経、顔の感覚を司る三叉神経、顔の表情を作ったり、味覚を伝える顔面神経や食べ物を飲み込むときや声を出す時に働く脳神経があるので、これらの脳神経が障害されると、物がダブって見えたり(複視といいます)、顔の反対側の感覚が鈍くなったり、額のしわが寄らなくなったり、口角が垂れ下がったり、味覚が低下したりなどの顔面神経麻痺、飲食に際してむせたり、飲み込みにくくなったり、声が嗄れたりするなどの脳神経麻痺が生じます。
また、大脳の前半部にできた腫瘍によって、突然痙攣をきたすことがあります。特に、成人になってから初めて痙攣をきたした場合には、脳腫瘍についても注意が必要です。
下垂体にできる腫瘍による症状については、「下垂体腺腫」の項で説明しましたので、こちらをお読み下さい。

当院で行っている脳腫瘍の画像検査について

CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(核磁気共鳴像)

挿絵・CT検査

脳腫瘍に限らず、脳の病気について中心となる画像検査です。CTはMRIよりも短時間で迅速に検査ができます。MRIは放射線(X線)を照射しないで任意の方向からの脳の状態を見ることができます。特に骨に囲まれた小脳や脳幹などにある腫瘍の診断にはMRIが有用です。また、腫瘍の存在が疑われれば、腎臓の機能に異常がないことを採血で確認してから、さらに造影剤を静脈注射して撮影します。これらの画像検査によって、腫瘍の有無、脳のどこにあるのか、大きさはどの程度か、どこまで広がっているのか、良性の可能性が高いのか、悪性と考えられるのか など、今後の治療やその後の見込みなどに関する重要な情報が得られます。
また、腫瘍の存在部位によっては、脳の血管と腫瘍の関係を見るために、CT血管造影検査やMRA(MR血管撮影)、脳の機能との関係を知るためのfMRI(機能性核磁気共鳴像)、拡散テンソル画像検査、腫瘍組織の代謝パターンを知るMRS(核磁気共鳴スペクトロスコピー)などの特殊なCT、MRI検査も行って、手術治療に役立てています。
転移性脳腫瘍が疑われる場合には、内臓にがんがないかどうかについてもCT、MRIで詳しく調べるが必要となります。

腫瘍シンチグラフィー

腫瘍組織に取り込まれるタリウムの程度により、悪性度をある程度明らかにすることを目的に行います。また、ガリウムシンチによって、炎症性疾患との鑑別する時や悪性リンパ腫の診断する時の情報が得られます。

脳血管造影検査

脳の血管を写し出すカテーテル検査で、腫瘍への血行動態や周囲の脳血管との関係や腫瘍自体の血管の性状を明らかにします。

代表的な脳腫瘍とその治療について

主治医は、諸検査の結果をもとにして、さらに患者さんの全身状態や社会的背景なども十分に考慮したうえで、どのような治療が最適な治療方法であるか、治療の得失などを患者さんや家族の方々に十分に説明し、納得して頂いたうえで治療方法を決定しています。また、他の医療機関から意見を求められたり、意見を求めたりする「セカンドオピニオン」にも対応しています。
以下に、代表的な脳腫瘍とその標準的な治療方法について説明致します。

髄膜腫

成人の良性、原発性脳腫瘍として最も多く、女性にやや多く発生します。最近は脳ドックで偶然発見される場合も増えています。この腫瘍のほとんどは、頭蓋骨の内側にあって脳を保護している硬膜という膜から発生し、脳を外から圧迫するようにゆっくりと大きくなっていく腫瘍です。通常、円蓋部(頭の上半分の頭蓋骨の裏側)、傍矢状洞部(大脳を循環した静脈血が通るところの近く)、大脳鎌(大脳を左右に隔てている膜)などに好発します。
単に髄膜腫と言う場合には良性腫瘍ですが、悪性度がこれよりも高い異型性髄膜腫や悪性髄膜腫と呼ばれる腫瘍もあります。また、多発することもあります。
髄膜腫による神経症状や痙攣があれば、治療が必要となります。無症状で発見された場合には、治療をしたほうが良いのか画像での経過観察を続けていくことでよいのかについて説明を聞いて頂き十分に理解して頂いた上で治療方針を決めています。
治療の基本は、手術による摘出です。腫瘍ができ始めた部位(硬膜)も含めての完全な切除ができれば、根治を期待できる場合もあります。発生した部位や脳、脳神経や重要な血管等への癒着が強い場合には全てを摘出することが難しいこともあります。
この腫瘍には、血管が多く入り込んでいることがあり、手術前に腫瘍に入っている動脈だけを予め塞いでおく腫瘍血管閉塞術という処置を行い、手術中の失血量を減らし手術時間を短縮することができます。また、治療までの期間に余裕があれば、ご自分の血液を貯血しておき、手術時に戻し輸血を行う(自己血輸血)こともあります。
手術治療が困難な部位の腫瘍、残存した腫瘍、再発を繰り返す腫瘍には、定位的放射線治療を考慮することもあります。当院ではX線を病巣部だけに集中して照射する治療機器を用いています。

神経膠腫(グリオーマ)

神経膠腫(グリオーマ)神経細胞を支持している神経膠細胞と呼ばれる細胞から発生する原発性脳腫瘍で、全脳腫瘍の約28%を占めています。最も多い神経膠腫は星細胞性腫瘍腫です。比較的悪性度低い神経膠腫として、成人では大脳に生じるびまん性星細胞腫(グレード2)、小児では小脳に好発する毛様細胞性星細胞腫(グレード1)があります。グレード3は準悪性に相当し、退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫があります。最も悪性のグレード4の神経膠腫は膠芽腫(こうがしゅ)と呼ばれます。
治療前の画像検査で神経膠腫が疑われる場合、切除が可能な部位にあれば、なるべく早期に、まず顕微鏡手術によって、病理組織を確認してからできる限り腫瘍を摘出することから治療を開始します。重要な機能が存在する部位(運動神経や感覚神経、言葉に関係した神経などがある部位)に発生した腫瘍を摘出する際には、障害されていない神経機能を温存するために、リアルタイムで手術部位を把握できるナビゲーションシステムを併用して摘出を行っています。しかし、神経膠腫は脳組織内に浸潤性に広がっていく傾向がありますので、症状を悪化させずに摘出することは困難な場合が多く手術治療に限界があることも事実です。また、脳幹に生じた場合には、組織診断のために行う生検も困難となります。
手術で摘出した組織の病理学的検査を行い診断が確定すれば、その結果によって(特に悪性度がグレード3、4の場合)、放射線治療や抗がん剤を用いた化学療法を追加する事になります。
グレード3、4の悪性神経膠腫については、可及的に腫瘍を摘出した後に、放射線治療(54〜60Gyの線量を30回に分割して照射する)とテモゾロミドという抗がん剤(カプセルの内服または注射薬の点滴投与)を用いた化学療法を併用した初回治療を行い、その後は1ヵ月のサイクルでテモゾロミドによる維持療法を継続していきます。放射線治療や化学療法には種々の副作用がありますので、定期的な採血や症状の観察が必要です。
神経膠腫は、一部を除いて以上のような治療でも根治させることが困難な場合が多く、再発などに関して注意深い経過観察が必要となります。再発時には、その時の患者さんの状態を十分に勘案した上で治療方針を決めていきます。

下垂体腺腫

下垂体は、左右の眼から更に奥へ繋がっている視神経が真ん中で交差する部位のすぐ下にあり、体の恒常性を保つホルモンを産生・分泌しています。この下垂体から発生する腫瘍として最も多いものが下垂体腺腫です。この腫瘍が発見される端緒となる症状には、腫瘍組織からホルモンが過剰に産生、分泌されることによる内分泌症状と、眼の神経などへの圧迫による症状とがあります。更に正常のホルモンが分泌されなくなり、下垂体機能不全を起こす場合もあります。また、腫瘍の中に出血が起きる下垂体卒中という状態になると、急激に視力障害が悪化したり、突然頭痛を感じることもあります。また、何ら症状がなく脳ドックで偶然に発見される場合もあります。
  • 代表的な内分泌症状
    プロラクチンという乳汁分泌刺激ホルモンが過剰に分泌されると、月経不順や無月経、乳汁分泌の症状が見られ、不妊の原因となっていることもあります。
    成長が止まる前に成長ホルモンが過剰に分泌されると巨人症になり、成人になってからであれば手足の先端や額、下顎、鼻、唇、舌などが肥大する先端巨大症を呈します。
    副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されると、顔が丸くなったり、手足よりも胸やおなかが太る肥満症、体毛が濃くなったり、にきびができやすくなるなどの症状が現れます。女性では原発性無月経の原因となることもあります。
  • 眼の症状
    腫瘍の増大によって、その直上にある視神経が圧迫を受けると、通常は視野の外側の視野欠損が生じます。更に圧迫が続けば視力も低下することがあります。
    ホルモンを分泌している腺腫の治療には、薬による治療と手術による治療があり、分泌しているホルモンの種類や腺腫の大きさや進展している部位などによって、治療方法が異なります。薬による治療が無効であったり、副作用により継続できなかったりする場合には手術治療を行う事があります。
    無症候性の腺腫も含めホルモンを分泌していない腺腫が視神経を圧迫している場合には、神経内視鏡を用いた摘出手術が第一選択となります。1回の手術で摘出できないこともあり、2回に分けて出を行うこともあります。

聴神経鞘腫

前庭神経という脳神経を包んでいる細胞から生じる良性腫瘍です。前庭神経は、耳の聞こえに関係する蝸牛神経とともに耳から脳幹へと繋がっていますので、耳の聞こえが悪くなって耳鼻科を受診されて発見されることがあります。また、ふらつきやめまいなどの小脳症状や顔面神経麻痺を呈して内科や耳鼻科を受診して発見される場合もあります。

腫瘍ができる部位には脳神経、脳幹や小脳が近接していますので、腫瘍自体は良性の細胞からできていても、その大きさや大きくなる方向によっては治療に難渋することもあります。
この腫瘍が発見された場合には、1)経過観察、2)手術による摘出、3)定位的放射線治療のいずれかを考慮します。腫瘍が小さく耳の聞こえにくさも感じない状態であれば、定期的にMRIでの経過観察を続けることもできますが、腫瘍の大きさと聴力障害が必ずしも関係しないことも知られていますので、注意が必要です。通常、腫瘍が3cm以上に大きくなっている場合には聴力も低下していることが多く、脳幹や小脳などにも圧迫を加えているので、手術治療が必要になります。手術では、残っている聴力を可能な限り温存することと聴神経に並行して存在する顔面神経を可能な限り傷つけないようにして腫瘍を摘出することが肝要です。当科では、耳鼻咽喉科と協働して、脳幹の機能を監視する機器や顔面神経を同定する刺激装置などを駆使して顕微鏡下での摘出手術を行っています。但し、脳幹や脳神経、血管などに強く癒着している場合には、無理な手術操作を避けて腫瘍を残す場合もあります。定位的放射線治療は、手術のリスクが高い患者さんに対して行い、基本的には3cm径以下の腫瘍が対象となります。

転移性脳腫瘍

全脳腫瘍の20%近くを占める悪性腫瘍です。肺がんからの脳転移が最も多く、次いで乳がん、直腸がんからの転移が続きます。過去にがん治療を受けられ、経過観察中に頭痛や神経症状をきたして発見される場合だけでなく、元のがんがまだ発見されていない状態で脳転移の方が先に見つかる場合もあります。脳内に多発していることもあります。
この腫瘍が発見された場合、脳腫瘍だけでなく、元になったがんや他の部位への転移の有無や全身状態などを十分考慮して治療方針を明らかにする必要がありますので、原発巣の主治医とも十分相談したうえで、患者さんやご家族に病状や治療について説明しています。
転移性脳腫瘍を根治することは不可能ですので、患者さんの残された期間の生活の質を少しでも改善させることを第一に考える必要があります。原則として、診断が確定した段階で患者さんご本人には病名を告知しています。
治療についての基本的な考え方は次の通りです。一般的に、その時のがんの状態から予想される余命が3ヵ月未満であれば、残念ながら積極的な治療の対象とならないことが多く、苦痛を緩和する治療に移ります。脳転移が1箇所だけであり、手術で安全に摘出でき、原発巣のがんが十分にコントロールされて再発がなく、余命が6ヵ月以上見込まれ、全身状態が良い場合には、腫瘍摘出術を行います。多発性の場合でもその内の一つが大きく、生命の危機に直結している場合にも、状態によってはそれを摘出する場合があります。
1か所の転移巣を肉眼的に全摘出した後は画像での経過観察を行います。大きさが3cm径以下で2個以内の転移巣が認められ3ヵ月以上の余命が見込める場合には、定位的放射線治療を行う事もあります。

脳原発悪性リンパ腫

悪性リンパ腫は、通常、リンパ腺に生じますが、リンパ組織がない脳にも悪性リンパ腫が生じることがあります。初発症状としては、運動麻痺、失語、精神症状、けいれん、頭痛などが見られ、脳の中にできる他の腫瘍と区別できる特有の症状はありません。画像診断では、脳のむくみを強く伴っていることが多く、多発性のこともあり、転移性脳腫瘍との鑑別も時に困難です。したがって、確定診断を得るための生検を目的とした手術が行われます。摘出手術は治療としての意義が少なく、組織診断が確定すればメソトレキセートという抗がん剤の大量投与を3~4サイクル繰り返し、全脳に放射線治療を行う方法が、現時点では標準的治療とされています。当院では、血液内科で治療を受けていただきます。